成年後見制度の改正で今の利用者はどうなる?3つの選択肢と今後の対策

成年後見制度が大きく見直されることになり、現在すでに制度を使っているご家族は、新制度が始まるタイミングでそのまま継続する、途中で終了する、新しい制度へ移行するという3つの道から今後の方針を選ぶことになります。
ただし途中で終了させたり新しい仕組みに切り替えたりする際は、ご家族の話し合いだけで決めることはできず、家庭裁判所に申し立てて認められる必要がある点には注意が必要です。
私たちの終活相談の現場でも、すでに親御様のために後見人を付けているご家族から、制度が変わると今の生活にどう影響するのかというご不安のお声を頂戴することがございます。状況に合わせて無理のない選択をすることが大切です。
本記事では、改正によって何が変わるのかという基本から、今の利用者が取れる具体的な選択肢、そして制度が始まる前に知っておきたい対策や準備について詳しく解説します。
成年後見制度の改正で今の利用者が選べる3つの選択肢
2026年6月に成立した改正民法により、制度の運用が抜本的に見直されることになりました。すでに制度を使っている方が最も気になるのは、自分たちの状況が今後どうなるのかという点でしょう。実際の施行は2028年夏から秋ごろと見込まれていますが、施行以降、今の利用者は主に以下の3つの選択肢から今後の方針を検討することができます。
- 現行の制度をそのまま使い続ける
- 必要がなくなった段階で利用を終了する
- 新しい制度へ移行して支援範囲を限定する
それぞれの選択肢について、具体的な内容を詳しく見ていきましょう。
現行の制度をそのまま使い続ける
現在利用している後見、保佐、補助といった枠組みでのサポートに満足しており、特に変更の必要性を感じない場合は、そのままの体制を継続することが可能です。新制度が始まったからといって、すべての方が強制的に新しい仕組みへ移行させられるわけではありません。
今の支援体制がご本人にとって最適に機能しているのであれば、あえて手続きをして変更する手間をかける必要はありません。ただし、そのまま使い続ける場合であっても、後述する後見人の交代に関する新しい柔軟なルールなどは適用されるため、いざという時には制度の恩恵を受けることができます。
必要がなくなった段階で利用を終了する
これまでの成年後見制度は、一度使い始めるとご本人がお亡くなりになるまで原則としてやめられない終身制でした。しかし改正後は、支援の必要性がなくなったと判断された段階で途中でやめることが可能になります。
たとえば、実家の不動産売却や遺産分割協議といった特定の手続きを終え、その後の生活はご家族の見守り体制で十分にカバーできるようなケースです。これまでは目的を果たした後もずっと後見人が付き続けていましたが、今後は家庭裁判所に申し立てを行い、終了が相当であると認められれば、制度の利用を終わらせることができるようになります。
新しい補助制度へ移行して支援を限定する
現在の後見や保佐を利用している方が、ご自身の必要な手続きだけをピンポイントで支援してもらうために、新しい仕組みへ移行する申し立てを行うことも可能です。
現在の制度では、ご本人の生活すべてを包括的に管理されがちでしたが、新制度では必要な場面に限って支援を受けるオーダーメイド型のサポートが中心となります。家庭裁判所がご本人の状況を確認し、とくに問題がないと判断すれば、過剰な権利制限のない柔軟なサポート体制へと切り替えることができます。
これまでの成年後見制度の問題点と法改正による変更点
なぜ今回の法改正が行われたのでしょうか。これまでの制度が抱えていた課題と、それが新制度でどう解決されるのか、その違いをまずは整理してみましょう。
| 比較項目 | 現行制度(改正前) | 新制度(改正後) |
| 利用期間 | 原則として一生涯(終身制) | 必要な期間だけ利用して途中で終了可能 |
| 制度の枠組み | 後見・保佐・補助の3類型 | 補助に一本化し、個別具体的に設計 |
| 本人の自由度 | 広範な代理権により権利制限が強い | 残存能力を尊重し、必要な支援のみに限定 |
| 後見人等の交代 | 不正行為がない限り非常に困難 | 本人の利益のために必要なら交代しやすくなる |
このように、これまでの硬直化した運用から、ご本人の意思や状況に合わせた柔軟な仕組みへと変わります。ここからは、具体的な変更内容をさらに深掘りして解説します。
現行の成年後見制度が抱えていた主な問題点
これまでの成年後見制度は、判断能力が低下した方を法的に守るという重要な役割を果たしてきましたが、実際の運用においてはいくつかの課題が指摘されてきました。
- 一度始めると原則としてやめられない
- 生活のすべてを管理されてしまう
- 本人の意思が尊重されにくい
それぞれの問題点について詳しく確認していきます。
一度始めると原則としてやめられない
後見が始まると、ご本人の判断能力が劇的に回復しない限り、制度は原則として継続します。実務上は、ほぼ一生制度が続くケースがほとんどでした。一時的な手続きのために制度を利用したにもかかわらず、その後何年にもわたって専門職後見人に報酬を支払い続けなければならないという事態が生じていました。
生活のすべてを管理されてしまう
特に重度の判断能力低下を対象とする後見では、後見人に包括的な代理権が与えられます。その結果、自分のお金であっても自由に使えなかったり、日々の重要な決断を自分で行えなかったりするなど、本来は権利擁護のための制度が、かえって過度な権利制限になっていると批判されることがありました。
本人の意思が尊重されにくい
制度の設計上、どうしても財産の保全や形式的な保護が優先されがちでした。その結果、ご本人がどうしたいかという意思が後回しになり、ご家族やご本人と後見人との間で意見の食い違いやトラブルが生じる原因となっていました。この点は、国連の障害者権利条約の観点からも見直しが求められていました。
新しい仕組みで使いやすくなるポイント
今回の改正要綱案では、これまでの問題を解消するためにいくつかの重要な変更が行われます。これにより、制度利用に対する心理的、経済的なハードルが大きく下がることが期待されています。
- 3つの類型が補助に一本化される方向へ
- 特定補助制度が新設される
- 途中でやめることが可能になる
- 後見人等の交代ルールが柔軟になる
それぞれの変更点について、利用者への影響を交えて解説します。
3つの類型が補助に一本化される方向へ
現行の後見、保佐、補助という3つの区分が見直され、新しい仕組みでは補助という枠組みの中で、個別具体的に必要な支援内容を設計していく形に再構成されます。これは支援が弱くなるわけではなく、ご本人の意思や残存能力を最大限尊重しながら、必要な場面や範囲に限ってサポートを提供するという考え方に基づいています。
特定補助制度が新設される
新しく特定補助人を付する処分という仕組みが設けられる予定です。判断能力を著しく欠く方が、預金の払い出しや不動産取引など法定された重要な財産行為を行った場合、必要性があれば特定補助人がそれを取り消すことができるようになります。ただし、過剰な権利制約を防ぐため、医学的判断を踏まえた厳格な要件のもとで適用される見込みです。
途中でやめることが可能になる
制度利用の必要がなくなったと家庭裁判所が認めた場合、補助開始の審判を取り消して制度を終了させることができるようになります。不動産の売却や遺産分割が終わったら終了するといった、目的を限定した利用がしやすくなるため、困ったときのスポット的な選択肢として検討しやすくなります。
後見人等の交代ルールが柔軟になる
これまで、後見人に明確な不正行為がない限り交代させることは困難でした。しかし改正後は、補助開始の審判を受けた者の利益のために特に必要があるときという解任事由が追加されます。ご本人やご家族と後見人との関係性が悪化し、支援方針の調整が難しい場合などに、裁判所の判断で別の担当者へ交代しやすくなります。
補助人の家族への説明義務と実務への影響
制度が新しくなることで、支援を行う側である補助人の役割や義務も整理されます。これにより、ご家族が制度に関わる際の負担や心構えにも変化が生じます。
補助人はご本人に情報を提供し、意向を把握しながら職務を行うことが義務付けられますが、ご家族への報告については注意すべき点があります。
ご家族への説明や報告に関する注意点
今回の改正要綱案では、補助人がご家族や親族に対して定期的な説明や報告を行う義務について、明文の規定は置かれていません。これは、あくまでご本人の利益を最優先とする制度設計であるためです。
そのため、親族からすると、ご本人の財産状況や支援内容が分かりにくいと感じる場面が残る可能性があります。制度を利用する際は、あらかじめ補助人とコミュニケーションを深め、情報共有のあり方について話し合っておくことがこれまで以上に重要になります。
今の利用者が制度改正までにできる今後の対策と検討事項
実際の新制度施行は2028年頃と予想されています。それまでの間、現在制度を使っている方や、直近で親の介護や財産管理のために制度利用を検討している方は、どのような対応をとればよいのでしょうか。
今後の対策としては、主に以下の3つの視点を持つことが大切です。
- 緊急時の対応と現行制度の活用
- 施行に向けた情報収集と準備
- 他の代替手段も含めた専門家への相談
それぞれの対策について具体的に見ていきましょう。
緊急時の対応と現行制度の活用
今すぐ親の預金口座が凍結されて生活費や介護費用の支払いに困っている、あるいは至急実家を売却しなければならないといった緊急性が高い場合は、改正を待つ余裕はありません。現行の成年後見制度を速やかに利用する必要があります。現行制度で開始したとしても、施行後に新制度への移行や終了の申し立てを行う道は残されているため、まずは目の前の生活基盤を守ることを最優先にしてください。
施行に向けた情報収集と準備
現在すでに制度を利用している方は、新制度へ移行するべきか、あるいは目的が達成されつつあるので終了の申し立てを行うべきか、方針を少しずつ検討し始める時期です。今後、具体的な移行手続きの方法や必要な手数料などの運用方針が、家庭裁判所から順次発表される予定です。急いで判断する必要はありませんので、国や裁判所からの正式なアナウンスを待ちつつ、ご家族間で話し合いを持っておくことをお勧めします。
他の代替手段も含めた専門家への相談
まだご本人に十分な判断能力があり、将来の認知症などに備えたいという段階であれば、無理に成年後見制度を利用する必要はありません。元気なうちであれば、信頼できる家族に財産管理を託す家族信託や、あらかじめ自分が選んだ人に支援をお願いする任意後見制度など、より柔軟な選択肢を取ることができます。どの方法がご家庭に合っているか、司法書士や弁護士などの専門家に早めに相談しておくことが、トラブルを防ぐ確実な対策となります。
よくある質問
制度の改正について、多くの方から寄せられる疑問にお答えします。
制度の改正はいつから始まりますか?
改正民法は2026年6月に成立しましたが、実務の準備や家庭裁判所での体制整備に時間がかかるため、実際に新制度がスタートするのは2028年の夏から秋ごろになる見込みです。正式な施行日は、今後国から発表されます。
今の利用者が強制的に新制度へ移行させられますか?
いいえ、強制的に移行させられることはありません。現在利用している後見、保佐、補助の支援内容に問題がなく、ご本人やご家族が現状のままでよいと判断すれば、そのままの体制を使い続けることができます。
途中でやめる場合の手続きはどうなりますか?
制度の利用を途中で終わらせたい場合は、ご家族の判断だけで勝手にやめることはできません。家庭裁判所に対して制度終了の申し立てを行い、裁判所が現在の状況を確認した上で終了が相当であると認めた場合にのみ、制度を終えることができます。